糖尿病網膜症
糖尿病網膜症とは
糖尿病が原因の網膜疾患であり、糖尿病の合併症(ある病気が元になって起こってくる、別の病気や症状のこと)として起きるのが糖尿病網膜症です。
この病気は、自覚症状を感じにくいことから、網膜の障害が徐々に進行していき、気づいた時には視力低下から失明に至ったというケースも少なくありません。
そもそも糖尿病とは、インスリン(膵臓から分泌されるホルモンの一種で、血液中の糖分(血糖)を組織に取り込ませ、血糖値を下げる働きをする)の分泌量が減少する、あるいは量が十分であっても機能低下がみられる状態を言います。
このような場合、血液中に糖がダブつくようになります。
そして血糖値を下げるのが困難になり、常に高血糖な状態となります。
これが長い間続くようになると血管がダメージを受けるなどして、体の様々な部分で合併症を発症しやすくなるのです。
糖尿病網膜症は、血液中のブドウ糖(血糖)の過剰な状態が続くことにより、やがて網膜の血管までもが損傷を受け、血管が詰まったり、変形したり、出血を起こすようになることで発症するのです。
糖尿病患者の方は眼科で定期的な検査を
なお糖尿病の発症を確認したといっても、すぐに糖尿病網膜症になるわけではありません。
この病気は糖尿病を発症してから数年~10年程度の時間を要します。
まずは糖尿病の治療に努め、血糖のコントロールを行っていれば、糖尿病網膜症の予防は十分に可能です。
ただ、経過観察として、定期的に眼科へ通院し、眼の状態を常に確認しておく必要はあります。
検査について
糖尿病網膜症が疑われる場合、以下の検査が一般的に行われます。
- 1 視力検査
- 裸眼視力や矯正視力(眼鏡やコンタクトレンズで矯正して見える視力)を検査します。
- 2 眼圧検査
- 眼球を外から押して、押し返してくる力を測定します。
- 3 細隙灯顕微鏡検査
- 斜めの方向から細隙光を目に当て、その状態を維持したまま顕微鏡で拡大し、結膜や角膜、水晶体などの状態を確認します。
- 4 光干渉断層計(OCT)
- 眼底に近赤外線を当て、その反射波を解析して、層構造をした網膜の断層像を描出し、網膜の状態を調べます。
- 5 眼底検査
- 目の奥(眼底)にある網膜・血管・視神経の状態をそれぞれ調べます。
治療について
糖尿病網膜症を発症した場合は、病状の進行度合によって治療方法が異なります。
その度合というのは、3段階(単純・増殖前・増殖)に分けられ、状態を確認した後、それに適した治療を行っていきます。
単純糖尿病網膜症(糖尿病網膜症の初期)
小さな眼底出血や白斑が症状として現れます。
自覚症状はなく、治療の必要はありません。
糖尿病の治療に欠かせない血糖値のコントロールに努めていれば、多くの場合は進行を抑えられます。
ただし、定期的な経過観察が必要です。3ヵ月に1回の割合で受診をするようにしてください。
増殖前糖尿病網膜症(糖尿病網膜症の中期)
小さな眼底出血と、網膜における血流が悪くなるといった症状が現れますが、自覚症状がない場合もあり、黄斑浮腫でなければ視力が低下しないことも多くあります。
ただ放置の状態を続けると増殖糖尿病網膜症に進行しやすく、血流不足による酸素・栄養不足に陥った網膜に対してはレーザー治療(網膜光凝固術)を行う必要があります。中期の糖尿病網膜症と診断されたら1ヵ月に1回程度の受診が必要です。
増殖糖尿病網膜症(糖尿病網膜症の進行期)
眼内に硝子体出血や増殖膜という線維膜が生じて、それによる難治な血管新生緑内障や牽引性網膜剥離など、様々な病態が引き起こされます。
治療では、レーザー治療(網膜光凝固)が必要ですが、それでも進行を阻止できないような場合は、硝子体手術(硝子体と出血を取り除き、増殖膜を切り取る手術療法)を行います。
糖尿病網膜症の合併症
糖尿病網膜症の合併症として、糖尿病黄斑浮腫があります。
これは、黄斑部に網膜の毛細血管から漏れ出た血液・血液成分によってむくみ(浮腫)が生じた状態を言い、黄斑部にむくみが出てくると、急な視力低下を招くことがあります。
しかし、黄斑浮腫を改善すれば、視力の回復が期待できます。
なお、黄斑浮腫は、糖尿病網膜症の病期(初期、中期、後期)に関係なく発症し、その進展に伴って発症の危険性も高まります。